「債務整理」経営破たんを意識しているのに販売した抵当証券は損害賠償に当たるか?

教授
大量
特許

主文

1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1 請求

被告は,別紙原告損害金一覧表記載の各原告に対し,それぞれに対応する同表の「請求額」欄に記載の各金員及びこれに対する平成13年4月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

本件は,原告らが,被告の発行する新聞等に掲載された広告を見て,大和都市管財株式会社(以下「大和都市管財」という。)の販売する抵当証券を購入したところ,平成13年4月16日に同社が破綻したことにより,抵当証券購入代金の償還を受けられない損害を被ったものであるが,被告には,大和都市管財が破綻に瀕していることを認識しながら,同社の抵当証券の広告を掲載した過失があると主張して,被告に対し,不法行為に基づき,各原告が被った損害の15パーセントに相当する別紙原告損害金一覧表の「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する遅延損害金(不法行為の後の日である平成13年4月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による。)の支払を求めている事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,各項に掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる。)
(1) 被告は,新聞の発行等を目的とする株式会社であって,日刊紙である中日新聞を発行している。
(2) 大和都市管財について(甲18ないし25,27ないし29,31,35,48ないし52及び54ないし56)
ア 大和都市管財とその関連会社
(ア) Cは,昭和55年ころ,休眠会社を買い取って,新都市計画株式会社に商号変更し,自ら代表取締役に就任して,不動産の仲介・販売業を始めたが,昭和60年2月,その商号を大和都市抵当証券株式会社に変更して抵当証券の販売業を開始し,さらに昭和62年7月,大和都市管財株式会社に商号変更して抵当証券その他の金融商品の販売等を行うようになった。
大和都市管財は,昭和63年12月21日,当時の大蔵省近畿財務局から抵当証券業の登録(抵当証券業の規制等に関する法律〔以下「抵当証券業法」という。〕3条)を受けた。
(イ) Cは,大和都市管財を中核として,自ら設立しあるいは買収したベストライフ通商株式会社(以下「ベストライフ」という。),ナイスミドルスポーツ倶楽部株式会社(以下「ナイスミドル」という。),ナイス函館カントリークラブ株式会社(以下「ナイス函館」という。),北海道泊別観光株式会社(以下「泊別観光」という。),株式会社美祢カントリークラブ(以下「美祢カントリー」という。),杜の都株式会社(以下「杜の都」という。),株式会社たに・いち(以下「たに・いち」という。),グレートジャーニィ株式会社,株式会社リステム化学研究所(以下「リステム化学」という。)及び株式会社ゼネラルファイナンスパートナー(以下「ゼネラルファイナンス」という。)を実質的に経営していた(以下,これらの関連会社と大和都市管財とを合わせて「大和都市グループ」という。)。
イ 大和都市グループの実態
(ア) Cは,昭和62年7月以降,自己が実質的に経営していた大和都市管財の関連会社(ナイスミドル,ナイス函館,美祢カントリー,ベストライフ及びリステム化学)で不動産を調達し,当該関連会社への融資について抵当証券の交付を受けるようになったが,これらの関連会社は,大和都市管財と経営・財務面において一体となっており,元利金を弁済するに足りる収益力は
なかった。
そのため,大和都市管財は,不動産を取得するために現実に支出した金額を大幅に上回る高額の鑑定評価を得て,その額を前提に融資の外形を整えて法務局から抵当証券の交付を受け,これを販売することにより余剰資金を確保し,金融商品の顧客に対する利払い・償還等に充当したり,新規物件の購入資金等の経費に充てていた。
このようにして,大和都市管財は,見るべき営業上の収益がないにもかかわらず,顧客に対する利払いの継続と,事業の拡大とを両立させていたが,いわゆるバブル経済の崩壊による不動産の価格の下落に伴い,利払いに足りるだけの担保価値のある不動産を仕入れることが次第に困難となり,他の資金調達方法を必要とするようになった。
(イ) そこで,大和都市管財は,平成6年6月ころから,抵当証券に代わるものとして,ナイスミドルが振り出し大和都市管財が割り引いた約束手形を販売し,1年サイトの手形で年5ないし6パーセントの利息を付け,手形を弁護士に保管させるという金融商品を開発し,抵当証券の顧客をこれに乗り換えるようにさせて,抵当証券の販売枠を空け,新規顧客から資金を受け入れる手法(以下「手形預かり商法」又は「手形商法」という。)を用いるようになった。
(ウ) その後,Cは,近畿財務局から,上記(イ)の約束手形販売について出資法違反の疑いがある旨の指摘を受けたため,約束手形に代わるものとして,平成9年7月ころから,ナイスミドルにおいて,チケット付きレジャー会員権(ゴルフ会員権に換金性のあるコース利用チケットを付加した金融商品)の販売を開始し,上記(イ)の約束手形の顧客をこれに乗り換えるようにさせた。
(エ) 大和都市管財は,法務局や近畿財務局の行政指導のため抵当証券の販売枠を拡大することが困難となったため,平成9年12月ころから,新たな金融商品として,関連会社(泊別観光,ナイスミドル,たに・いち及びベストライフ)に対し抵当権を設定して融資し,その債権を抵当権とともに顧客に譲渡する抵当権付き債権一部譲渡を金融商品として販売し始めた。
そして,大和都市管財は,不動産の担保価値を大幅に超える販売枠を設定してこれを販売していたが,新たな不動産を取得しなければ販売できないため,すぐに限界となった。
(オ) そこで,Cは,平成11年12月ころから,ゼネラルファイナンスにおいて,匿名組合を設立して医療機関やベンチャー企業等へ融資し,その運用益を出資者に配分するという建前の金融商品であるGFPシュアーファンドの販売を開始した。
しかし,集められた資金は,実際には事業に投資されることはなく,他の商品の利払いと大和都市管財の関連会社の運転資金に充てられた。
(カ) このように,大和都市グループは,顧客から資金を集めるものの独自の運用は行っておらず,顧客に新たな金融商品を購入させ,その代金をもって,顧客に対する利払い・償還等に充当したり,新規物件の購入資金等の経費に充てていたもので,債務や経費の支払を,新たな利子負担を伴う金融商品の販売によって賄うという自転車操業を無限に継続できるはずはなく,その経営内容は,いずれは破綻することを免れないものであった。
ウ 大和都市グループのてん末
(ア) 近畿財務局は,平成9年6月18日から,大和都市管財に対する立入検査を実施した。
そして,近畿財務局長は,平成9年10月31日,大和都市管財に対し,抵当証券発行特約付融資に係る審査体制が不備であり,融資先である関連会社を含めた大和都市管財の経営健全化計画が初年度(平成8年)より大幅未達となっていることから,結果的に大和都市管財の経営が困難となる可能性があり,大和都市管財の抵当証券の購入者が被害を被る蓋然性が高く,その利益を害する事実があると認められることを理由として,融資審査体制の確立,経営状況の改善及び抵当証券買戻し資金の確保を命令事項とする業務改善命令を発出した。
(イ) 大和都市グループは,平成9年9月30日の時点において,約144億円の債務超過に陥っており,それまでに販売していた金融商品について,約定どおりに元利金の償還・支払をすることができない経営状態となっていたが,平成9年11月,平成13年度末には債務超過が解消されるとの見込みを示した経営健全化計画(5ヶ年計画)を近畿財務局に提出した。
しかし,実際には,大和都市グループの債務超過額は,平成9年度末の時点において約180億円,平成10年度末の時点で約203億円と,増加の一途をたどった。
(ウ) 近畿財務局長は,大和都市管財について,平成3年12月21日,平成6年12月21日及び平成9年12月21日に,それぞれ抵当証券業登録の有効期間の更新の登録をしていたが,平成12年12月21日,同年10月11日付で申請された更新登録を保留とし,平成13年4月16日に至って,財産的基礎の欠如(抵当証券業法8条2項・6条1項7号)を理由として更新登録を拒否し,大阪地方裁判所に対して,大和都市管財は既に債務超過の状況にある旨の会社整理の通告をした。
(エ) 大阪地方裁判所は,上記(ウ)の通告に基づき,同日,大和都市管財について会社整理手続の開始を決定し,さらに,関連会社(杜の都を除く)についても,同年7月16日又は同年8月21日,民事再生手続開始決定又は破産宣告決定をした。
(3) 大和都市管財に関する新聞報道
ア 近畿財務局による立入検査と業務改善命令について(甲5の1ないし4及び6,6の1,2並びに7)
朝日新聞社,読売新聞社及び毎日新聞社は,平成9年10月31日ないし同年11月2日,近畿財務局が,大和都市管財に対し,平成9年6月から立入検査を実施し,平成9年10月31日,その経営状態の悪化から,抵当証券の購入者に被害が生じることを懸念して,業務改善命令を発出した旨の新聞報道をした。
平成9年10月31日の朝日新聞朝刊の記事には,「出資法にも触れかねない利回り商法を展開していた」,「販売総額は百数十億円になる」,「多くの手形は会社側が保管し,顧客に現物が渡らない『ペーパー商法』まがいの手法をとっており,大半の客が被害を受ける恐れがあるため,大蔵省近畿財務局は6月から異例の長期の立ち入り検査を実施。捜査当局も強い関心を寄せている」,「金融会社社長の話 複数の弁護士や大蔵関係者と相談を重ねた結果,(中略)明らかに違法だという指摘はなかった。当社と取引が長く,信頼関係のある客に絞っており,出資法が定める『不特定多数』からの預かり金にはあたらない。」などと記載されていた。
また,同年11月1日の朝日新聞朝刊の記事には,「出資法に抵触しかねない『手形商法』に至った同社の現在の経営状態が,抵当証券の顧客に被害を与えることを懸念しており,早急に健全化するよう求めている」,「財務局は,年度ごとに提出される業報告書などから,複数の関連企業を抱える同社がグループ全体で多額の負債を抱えている実態を把握しており,以前から指導を重ねていたという」などと記載されていた。
さらに,同年11月2日の朝日新聞朝刊の記事には,「同社が手形販売を始めた直後の1994年秋以降,何度かにわたり大蔵省近畿財務局から『不特定多数からの預かり金を禁じた出資法違反の疑いがある』と指摘されていた」,「関連会社も含めた同社の経営内容の悪化が深刻さを増し,主体である抵当証券の客への被害も懸念されるようになったため,財務局は10月31日,業務改善命令を出した」,「同社幹部は,財務局から指摘を受けていた事実を認めたうえで,『(中略)問題があるなら,正式に行政指導などをしてくれと要請したら,一般論で述べているだけだと言われた。それ以降もとくに厳しい指摘はなく,法的な問題は回避したと受け止めた。』と話している。」などと記載されていた。
なお,同年10月31日の読売新聞の記事には,「手形の買い戻しなどをめぐって顧客とのトラブルはない」とも記載されていた。
ただし,上記各新聞記事においては,大和都市管財の社名は明らかにされていない。
イ 抵当証券業登録の有効期間の更新登録の保留について(甲8及び9)読売新聞社及び日本経済新聞社は,平成12年12月22日,近畿財務局が,同月21日に,大和都市管財の抵当証券業登録の有効期間の更新登録を保留した旨の新聞報道をした。
読売新聞の記事には,「財務局が実施している検査で財務内容について同社との間に見解の相違があるためで,異例の措置だが,期限が過ぎた20日以降も前期の登録が有効で営業に支障はない。同財務局はさらに検査を進め,更新を認めるかどうか慎重に判断するとみられる。」,「金融検査は今年10月から実施し,12月上旬に実地検査を終了」,「抵当証券業者は,資産と負債の差額が資本金を上回らねばならないとする規定があり,同社はクリアしていると主張しているが,同財務局は検査のなかで疑問点を指摘しているとみられる。」などと記載されていた。
また,日本経済新聞の記事には,「金融当局が登録更新を保留にするのは珍しいという」などと記載されていた。
(4) 被告による広告掲載の状況
ア 被告は,中日新聞紙上に,大和都市管財の抵当証券の広告を,平成9年2月から平成13年4月までの間に合計109回掲載した。
なお,広告掲載面は,朝刊社会面下段の広告スペースが主であった。
イ また,被告は,月3回発行し中日新聞とともに読者に配達する情報誌「ショッパー」にも,平成11年3月25日から平成13年4月12日までの間に,合計22回にわたり,大和都市管財の抵当証券の広告を掲載した。
ウ 大和都市管財は,Dが代表取締役を務める広告会社である株式会社アド・イーグル(以下「アド・イーグル」という。),被告が発行済株式総数の60パーセントを保有する広告会社である株式会社総合広告(以下「総合広告」という。)を順次経由して,被告に対する広告掲載申込みを行っていた(乙23ないし25,28,証人D,証人E,証人F,証人G及び証人H)。
エ 広告の内容(甲1の1ないし68及び2の1ないし4)
上記ア及びイの大和都市管財の抵当証券の広告には,「DTKベストモーゲージ[抵当証券]」とあり,「信頼の好利率で人気!」(ただし,平成10年10月19日以降は「信頼の好利率!」と変わった。),「元利金のお支払いは当社で保証致します。」,「1年満期 年3.0%」,「2年満期 年3.5%」,「3年満期 年4.5%」,「5年満期 年5.5%」などと記載されていた。
そして,この広告には,平成10年10月19日以降,「為替変動の影響は受けるが,利率は高い金融商品が人気を集めています。
しかし,最近の急激な円高に見られますように,為替が激しく動いた場合,利息どころか,元本までもが危うくなりかねません。
『DTKベストモーゲージ』は確定利付の金融商品です。元本・お利息共,当社で保証致します。」という文章が載せられ,平成11年3月29日以降はこれに代えて,「利回りの良い外貨建て金融商品が人気を集めています。
しかし,外貨建てのために常に為替変動の影響を受けます。
円安になれば利益を見込めますが,反対に円高に振れれば,利息はもちろん,元本さえも危うくなりかねません。
『DTKベストモーゲージ』は確定利付の金融商品です。元本・お利息共,当社で保証致します。」という文章が載せられていた。
(5) 新聞広告倫理綱領による規制と抵当証券業の新聞広告掲載基準(甲10)
ア 社団法人日本新聞協会(以下「日本新聞協会」という。)が制定した新聞広告倫理綱領(昭和33年10月7日制定,昭和51年5月19日改正)は,その「制定の趣旨」の中で,「本来,広告内容に関する責任はいっさい広告主(署名者)にある。
しかし,その掲載にあたって,新聞社は新聞広告の及ぼす社会的影響を考え,不当な広告を排除し,読者の利益を守り,新聞広告の信用を維持,高揚するための原則を持つ必要がある。」としている。
そして,同綱領は,「1.新聞広告は,真実を伝えるものでなければならない。1.新聞広告は,紙面の品位を損なうものであってはならない。1.新聞広告は,関係諸法規に違反するものであってはならない。」と定めている。
イ 新聞広告倫理綱領を受けて,日本新聞協会は,広告委員会広告掲載基準研究会において具体的な新聞広告掲載基準を研究し,これを「広告表示の基礎知識」という題で発刊している。
同書は,抵当証券業の広告に関して,「表示上の問題も含めて実態面はどうなのか,過去に問題を起こしていないかなど,慎重に見極める必要があるでしょう。」とした上,表示の注意事項として,「@抵当証券業者登録簿に登録した商号,名称が表示されているかどうか,A社会的に過剰であると思われるような誇大表示はないか,B抵当証券に記載された証券の元本及び利息の支払いの確実性,その他著しく事実に相違または誤認を与えるような表示はないか」などに十分注意するよう促している。
(6) 被告の広告掲載基準(乙12ないし15)
ア 被告は,昭和32年1月1日,「中部日本新聞広告倫理要領」を制定し,昭和39年6月1日,同倫理要領を全面的に改正するとともに,詳細な「広告掲載基準規定集」を作成した。
その後,被告は,「広告掲載基準」を策定し,昭和59年3月,昭和63年4月,平成8年1月,平成13年11月にそれぞれ改訂を行った。
イ 被告の広告掲載基準には,広告掲載の一般的基準である「全般規定」(ただし,平成8年1月以降は「掲載全般規定」とされた。)のほか,広告内容ごとの詳細な基準である「細則」が設けられている。
ウ 被告は,平成8年1月,広告掲載基準を改訂し,細則の「金融・証券・投資関係の広告」の項に,抵当証券の広告に関する項目を新設し,「『抵当証券法』に基づき登録がされている企業で事前審査を実施,本社が掲載を妥当と判断したものに限り掲載する。」との規定を置いた。
エ 被告は,ショッパーに広告を掲載するに当たって,中日新聞と同じ広告掲載基準を用いて広告掲載の可否を判断している。
ただし,その運用は,中日新聞と全く同一ではない。
2 争点1(広告掲載の違法性及び過失の有無)
(原告の主張)
(1) 被告の注意義務
ア 新聞社の広告掲載に関する一般的な注意義務
新聞広告は,新聞紙上への掲載行為によって初めて表現されるものであり,広告に対する読者らの信頼は,高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼と全く無関係に存在するものではなく,広告媒体業務にも携わる新聞社としては,新聞広告のもつ影響力の大きさに照らし,広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見しえた場合には,真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務がある(最高裁平成元年9月19日判決)。
したがって,被告は,広告媒体業務にも携わる新聞社として,虚偽広告を読者らに提供してはならない法的義務を負担している。
イ 被告の高度な注意義務
そして,中日新聞は,次の理由から,広告の掲載に当たっては,新聞社としての一般的な注意義務にとどまらず,より高度な注意義務を負うものである。
(ア) 中日新聞は,愛知,岐阜及び三重の東海三県において,発行部数272万部以上,シェア80.7パーセントを誇っており,中央紙である朝日新聞(シェア11.9パーセント),読売新聞(シェア4.0パーセント)及び毎日新聞(シェア2.4パーセント)を,発行部数及びシェアにおいて圧倒している。
また,中日新聞は,東海三県において,クオリティペーパーとしての評価を受けており,広告を含めた掲載内容について,購読者から絶大な信頼を得ているのであって,読者に対し広範かつ極めて多大な影響力を及ぼしている。
そのため,中日新聞は,他紙と比較して広告の集中度が圧倒的に高く,広告の掲載量も多い。
(イ) また,被告は,専門的職業人としての豊富な知識・情報・経験と,組織力に基づく高い情報収集能力(従業員数3500人,通信局国内外多数)を有している。
ウ 抵当証券業に関する広告掲載における注意義務
(ア) 前提となる事実(5)のとおり,新聞広告倫理綱領の制定を受けて発刊された「広告表示の基礎知識」は,単に,その抵当証券業者が抵当証券業法に基づいて適法に業務を行っているかどうかだけでなく,@元本及び利息の確実性,A過去に問題を起こしていないか,すなわち,過剰,誇大広告,あるいは違法性を疑わせるような問題を起こした業者であるかどうかを具体的かつ厳格に審査するべきであると指摘している。
(イ) 抵当証券及びそのモーゲージ証書の販売については,昭和61年に空売り・二重売りなどの被害が相次いでおり,その後抵当証券業法による規制がされるようになったが,バブル経済が崩壊した状況では,金融機関系列の抵当証券業者の抵当証券といえども,元本保証が著しく困難となり,元本割れが避けられない事態も生じるということが,新聞・雑誌等の一般紙において繰り返し報道されており,報道関係者にとってはいわゆる公知の事実であった。
特に,平成7年以降,大手都市銀行や大手証券会社の関連抵当証券業者といえども破綻を免れない経済情勢となっており,抵当証券及びモーゲージ証書の安全神話は完全に崩壊したといえる。
(ウ) したがって,特に,抵当証券業者の破綻・倒産が相次いだ平成7年秋以降は,新聞社である被告が抵当証券の元本保証の確実性等をうたう広告を掲載するに当たって負う,広告内容の真実性を調査確認する注意義務は,一層加重されたというべきである。
エ 本件において,被告が中日新聞紙上に大和都市管財の抵当証券の広告を掲載したことが,原告らに対する注意義務違反を構成するか否かは,上記アの最高裁判決の基準に則って判断されるべきである。
そして,この判断は,専門的職業人,すなわち広告審査に業若しくは職務として携わる者を基準としてされるべきである。
オ 被告の主張について
(ア) 被告は,新聞社の広告審査には時間的・質的制約があり,広告審査は,原則として,広告表示について書面により審査するものにすぎないことなどを理由として,上記アの最高裁判決のいう,特別の事情及び損害予見事由があって新聞社に真実性調査確認義務が課せられる場合は,極めて厳格に解されなければならない旨主張する。
a しかし,時間的制約をいう点については,調査が拙速となってはその広告を見た読者に被害が及ぶことになるのであり,迅速性を強調することは,読者である消費者の利益を無視し,広告主の利益を偏重することでしかない。
b また,質的制約をいう点については,被告が大和都市管財の抵当証券の広告掲載をいったん中止したのは,形式的な審査に基づく判断からではなく,読者の損害を回避するためであり,被告が入手し得た情報を総合判断の上で広告掲載の適否を決定していたことは明らかで,それが可能であったといわざるを得ない。
したがって,広告主の経営破綻の疑念があり,損害を被る読者の存在が予見される場合は,広告表示についての形式的審査基準を満たしていたとしても,免責されない。
なお,広告審査において,高度な情報収集能力を有する編集部門の能力を利用することは,何ら編集部門の独立性・公平性を害することにはならず,むしろ,正確な情報伝達が可能となるのであり,その利用を制限する理由はない。広告部門と編集部門とは一つの法人格の下に統合されているのであるし,高度に専門化し分業化した組織においては,その部門ごとの能力を相互に補完し合いながら活動し,対外的な信用を得ているのであり,広告の及ぼす社会的影響からすれば,広告審査に当たっては自ら取材した情報を用いることを期待されているのである。
したがって,広告部門に取材能力がないという内部事情をもって,被告は免責されない。
(イ) 被告は,被告の広告掲載基準は自主規範にすぎず,それに違反しても,社会的・道義的責任は生じたとしても法的責任は生じないと主張する。
しかし,自主規制違反は法的な違法性判断の要素の一つであり,被告は,大和都市管財からの広告掲載依頼が増えることを予測して,平成8年にわざわざ抵当証券に関する広告基準を設けたのであるから,大和都市管財の抵当証券の広告の掲載に当たっては慎重な態度が強く要求されていた。
(2) 被告の真実性調査確認義務の発生
平成9年10月31日以降,被告が大和都市管財から掲載を依頼された抵当証券の広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があり,被告において,読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得たことは明らかである。
ア 誇大広告
(ア) 土地神話が崩壊し,社団法人抵当証券業協会(以下「抵当証券業協会」という。)に登録している抵当証券業者は,平成3年の167社をピークに急激に減少していた。このように多くの抵当証券業者が撤退する状況の下,金融商品としての抵当証券は高利で安全な商品ではなくなっていた。
そして,平成8年以降の代表的な抵当証券業者の利率は,1年もので1パーセント,3年もので1.1ないし2.3パーセントにすぎなかった。
これに対し,大和都市管財の抵当証券の広告は,平成9年からその破綻までの間,広告上では変わることなく,1年もので3パーセント,2年もので3.5パーセント,3年もので4.5パーセント,5年もので5.5パーセントという高配当をうたっていた。このような高配当は,社会的に過剰な誇大表示である。
(イ) そして,被告自身,平成5年12月8日の中日新聞紙上で,会社名の特定こそしていないが,大和都市管財が販売する抵当証券の利率が他社に比較して相当に高率であること,抵当不動産の価格が大きく下落すれば投資家が大きな損害を被ることを指摘し,警鐘を鳴らす記事を掲載していた。
この記事は,銀行系や証券会社系の3年ものの抵当証券が2.9パーセント程度で販売されているのに比べ,当該会社の利率は5.5パーセントと相当高利であることを紹介しており,大和都市管財と名指しはしていないが,大阪市内に本社がある独立系(銀行等の支援母体を持たない系統の業者)の会社であると特定し,記者が実際に当該会社の総務部に取材をしたという記事内容となっていることからすれば,被告がこの時点で既に,大和都市管財が高利率をうたっていることを認識し,問題視していたことは明らかである。
イ 大和都市管財の経営実態
(ア) 抵当証券業者は,不動産を担保とした事業者向けの債権につき抵当証券の発行を受け,その証券の原券に代わる証書(モーゲージ証書)を一般投資家に販売することを業としており,モーゲージ証書の購入者は,当該業者が破綻した場合,担保不動産の価値の限度でしか保証が受けられない。
それゆえ,抵当証券の商品としての安全性は,それを発行する抵当証券業者の経営・財務の安全性と直結している。
ところが,前提となる事実(2)イのとおり,大和都市管財の抵当証券発行特約付融資先は,大和都市管財と経営・財務面で一体となった関連会社だけであり,大和都市グループは,平成6年の時点で数十億円の債務超過に陥っていた。
そこで,大和都市グループは,約束手形やチケット付きレジャー会員権を販売するなどしたが,いずれも出資法違反の行為にほかならず,大和都市管財の経営実態は,破綻必至のものであった。
(イ) 大和都市管財の経営実態の認識可能性
a 平成9年10月31日以降について
(a)@ 新聞報道
@ 出資法違反の疑いによる立入検査について
前提となる事実(2)イ(イ)の手形預かり商法は,法が承認していない不特定多数からの預かり金受入行為に該当するものであり,出資法違反の疑いが濃厚であった。
そこで,近畿財務局は,平成9年6月中旬ころ以降,大和都市管財に対する立入検査を実施した。
そして,この事実は,前提となる事実(3)アのとおり,同年10月31日の朝日新聞等において報道された。
朝日新聞の記事は,約束手形の販売総額は150億円を上回っていると伝えており,一方,大和都市管財の資本金は4億5000万円にすぎなかったから,負債と資本規模の比較からも償還に疑念を抱かせるものであった。
A 抵当証券業法に基づく業務改善命令について
近畿財務局は,上記@の立入検査の結果などから把握した大和都市グループの経営状況からすると,大和都市管財の行っている抵当証券業において購入者に被害が及ぶおそれがあると判断し,平成9年10月31日,大和都市管財に対し,抵当証券業法に基づき業務改善命令を出した。
そして,この事実は,前提となる事実(3)アのとおり,同年11月1日の朝日新聞等において報道された。
業務改善命令とは,「抵当証券の購入者の利益を害する事実があると認めるとき」(抵当証券業法23条)に発令されるものである。
そして,抵当証券業者に対する業務改善命令は,平成7年8月28日に木津信抵当証券株式会社(以下「木津信抵当証券」という。)及び大阪抵当証券株式会社(以下「大阪抵当証券」という。),平成7年11月13日に不動抵当証券株式会社(以下「不動抵当証券」という。)に対し発令されているが,それからほどなく,木津信抵当証券は平成7年8月31日,大阪抵当証券は平成7年秋,不動抵当証券は平成9年7月ころにそれぞれ破綻している。
したがって,業務改善命令の発令は,まさに大和都市管財の問題性を表出させるものであった。
B なお,上記@及びAの新聞記事においては,大和都市管財の社名は明らかにされていないが,記事中に「1980年代後半から不動産に設定した担保権を有価証券化した『抵当証券』を一般投資家に販売してきた。」などとあって,抵当証券業者であることは明らかであるし,被告担当者らは,広告会社に問い合わせた上で,当該記事が大和都市管財についてのものであることを確認している。
A 内部告発文書
平成9年10月31日に大和都市管財の手形預かり商法の報道がされると,大和都市グループの役員及び従業員も,販売している金融商品の償還が早晩破綻することを認識していることが記載された内部告発文書が各報道機関宛に送付された。
また,平成12年6月18日には,大和都市管財の元従業員と称する者から,大和都市管財が取得不動産を水増し鑑定させて担保価値以上の抵当証券を販売していること,大和都市管財が投資家から集めた資金を運用しないで利息支払,販売管理費等で費消していること,グループの赤字は累積しており,抵当権付債権一部譲渡,GFPシュアーファンドなど次々に新商品を開発したが,およそ返済は不可能な状況にあること,大和都市管財及び関連会社の人的構成,経理は渾然一体として処理されていること,抵当証券その他の金融商品について利息・元金の償還が不可能であることを役員・社員も認識していることが記載された内部告発文書が,各報道機関宛に送付されている。
(b) 被告は,報道機関としての高度の専門知識と広範な取材・情報収集能力により,モーゲージ証書の販売方式による抵当証券商法について過去幾多の詐欺事件が発生してきたこと,昭和61年に抵当証券業者の経営破綻が続発したことから,母体行等の背景のない独立系抵当証券業者は一般的に経営基盤が脆弱かつ不安定であり,これが破綻した場合には極めて大量・多額の被害が発生することを十分に認識していたのであり,また,自らも同種事件を報道して,度々抵当証券の危険性を指摘する記事を掲載していた。
したがって,被告は,上記(a)のような,大和都市管財による出資法違反の手形預かり商法の展開,近畿財務局による相次ぐ立入検査及び業務改善命令の発令に関する新聞報道,並びに大和都市管財の従業員又は関係者と思われる者からの内部告発文書等により,遅くとも平成9年10月31日以降は,大和都市管財が法に抵触する詐欺的商法を行っている問題会社であり,その経営状態は脆弱で抵当証券の元利金の償還・支払に耐えられる状態ではなく破綻に瀕していることを,認識したか容易に知り得たものである。
そして,銀行等の支援母体基盤を持たない独立系抵当証券業者である大和都市管財が破綻した場合,購入者は担保不動産の価値の限度でしか保証を受けられず,抵当証券の利息の支払不能,元本の償還不能の事態が生じ,多数の消費者に被害が及ぶことは公知の事実であって,抵当証券業者の破綻を再三報道してきた専門的職業人である被告としては,このことを当然に予見することができた。被告自身,上記(a)@の新聞記事により,大和都市管財の手形商法と同社に対する業務改善命令を把握した後,広告の掲載をいったん中止しているが,これは,被告が,広告を見た読者に被害が及ぶことを懸念したためであり,読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見していたことを明確に表している。
したがって,被告において,大和都市管財の抵当証券の広告内容の真実性,すなわち,抵当証券購入者に元利金が保証されることについて,疑念を抱くべき特別の事情があったということができ,これを掲載すれば,広告を信用して抵当証券を購入した読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得たというべきである。
(c) 被告の主張について
@ 新聞記事の内容について
被告は,前記(a)@@の記事は出資法違反に関するものであり,抵当証券の販売とは無関係であると主張する。
しかし,抵当証券業は登録を受けた法人でなければ営むことができず(抵当証券業法3条),登録の有効期間は3年であり(同法7条),有効期間の更新の登録をしなければ継続して営業することができない(同法8条1項)。
そして,更新登録については,拒否事由が定められており,出資法違反を犯し罰金を科せられた法人(同法8条2項・6条1項5号),抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成を有しない法人(同項7号)については,更新登録が拒否されることとなる。
また,抵当証券業者が出資法違反を犯し罰金を科せられた場合には,登録が取り消されることとなる(同法24条1項1号)。
したがって,大和都市管財が出資法違反を疑われたことは,抵当証券販売と無関係ではなく,むしろ重大な事実である。
また,上記記事からは,大和都市管財が経営状況の悪化から出資法に違反しかねない手形商法にまで手を出していること,及び,そのような経営状況からすると,抵当証券の購入者に被害を与えるおそれがあることを容易に読み取ることができる。
A 業務内容の改善について
被告は,業務改善命令が発令されてから一定期間が経過すれば,業務内容は改善されていると考えたと主張する。
しかし,グループ全体で多額の負債を抱え経営の悪化を指摘されて,抵当証券の購入者の利益を害する事実があるとして業務改善命令を受けたばかりの会社が,短期間に業務を改善できるはずはなく,悪化した財務状況を立て直すには,相当長期にわたる経営健全化計画の立案及び遂行が必要となる。
また,前記(a)@Aのとおり,業務改善命令を受けた抵当証券業者(木津信抵当証券,大阪抵当証券,不動抵当証券等)がその後に破綻している。
したがって,業務改善命令により経営内容が改善されたということはできない。
なお,平成9年12月21日に大和都市管財の抵当証券業の登録が更新されたことについては,被告自身,その後もしばらくの間,大和都市管財の広告の掲載を見合わせたのであるから,上記更新の事実により直ちに疑念が払拭されたということはできない。
B 続報記事について
被告は,続報記事がなかったというが,前記(a)@の記事が誤りであれば,訂正記事が出てしかるべきであった。
C クレーム等について
被告は,大和都市管財に関するクレームは寄せられておらず,取付け騒ぎも起こっていなかったと主張する。
しかし,クレームは,平成8年ないし9年当時から大蔵省,抵当証券業協会,消費生活センターなどに寄せられていた。
大和都市管財が組織的かつ計画的に詐欺的な抵当証券業を継続し,利払いなどを継続していたため,被害が顕在化しなかっただけである。
また,クレーム等の有無は,大和都市管財の財務内容が安定していることや,大和都市管財が違法行為を行っていないこととは関連性がない。
D Cの抗議について
被告は,Cが朝日新聞社に対し抗議していたというが,その事実をもって,前記(a)@の報道内容を否定する判断を下し,大和都市管財に問題がないと考えることは理由がない。
Cは,大和都市管財が業務改善命令を受けたという朝日新聞の記事の内容を否定していたのであるから,その真偽の調査が一層求められる状況にあったといえる。
また,被告としては,Cが朝日新聞に対し何らの法的措置も講じていないことを重視すべきであった。
E 他紙における広告掲載の再開について
被告は,他紙が広告の掲載を再開したというが,読売及び毎日の両紙における広告の掲載は,大和都市管財が被告の広告掲載再開を狙って呼び水として単発的に行ったものであり,広告審査に
携わる者であれば,そのような可能性・大和都市管財の思惑に気付いたはずである。
また,他紙の単発的な広告掲載は,大和都市管財の抵当証券の安全性すなわち大和都市管財の財務内容が安定していることや,大和都市管財が違法行為を行っていないことには結び付かない。
F 刑事・行政上の処分等について
被告は,大和都市管財が刑事・行政上の処分を受けていなかったという。
しかし,大和都市管財が業務改善命令を受けたという事実は行政上の処分を受けたことに該当する。
なお,近畿財務局が登録を更新したことについては,財務局による登録取消は当該企業を強制的に倒産に導く行政権限の行使であることなどを考慮すれば,取消としなかったことをもって,被告の広告掲載を正当化することはできない。
また,大和都市管財が刑事・行政上の処分を受けたか否かは,同社の業務が改善されたか否かとは直接関係しない。
b 平成12年12月22日以降について
(a)@ 新聞報道
大和都市管財から抵当証券業法に基づく抵当証券業登録の更新申請を受理していた近畿財務局は,大和都市グループの経営状況からすると,これ以上大和都市管財が抵当証券業務を継続すれば,抵当証券,そのモーゲージ証書及び関連商品の購入者に被害が及ぶことは必至であると判断し,平成12年12月21日,大和都市管財に対し,抵当証券業登録の更新を保留する措置をとった。
この事実は,前提となる事実(3)イのとおり,同月22日の読売新聞及び日本経済新聞において報道された。
A 内部告発文書
前記a(a)Aのとおり,平成12年6月の時点において,大和都市管財の経営実態に関する内部告発文書が各報道機関に送付されていた。
(b) 上記(a)@の新聞記事は,近畿財務局が大和都市管財の財務内容について疑問を持っていることを指摘しているのであるから,登録の更新の保留が異例の措置であること,大和都市管財が3年前にも業務改善命令を受けていたことを併せて考えれば,被告は,遅くとも平成12年12月22日以降,大和都市管財の経営内容の更なる悪化,破綻の危険性,ひいては抵当証券購入者が受けるであろう被害を予見し,又は予見し得たというべきである。
被告は,不十分ながら広告掲載継続の判断のための調査をしており,これは,読者に不測の損害が及ぶことを予測したからにほかならない。
また,上記(a)Aのとおり,内部告発文書が各報道機関に送付されていたのであるから,被告が取材活動を行っていれば,大和都市管財の問題性を認識し得た。
したがって,被告において,大和都市管財の抵当証券に関する広告内容の真実性,すなわち,抵当証券購入者に元利金が保証されることについて,疑念を抱くべき特別の事情があったということができ,これを掲載すれば,広告を信用して抵当証券を購入した読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得たというべきである。
(c) 被告の主張について
@ 更新拒否ではなく営業の継続が可能であったことについて被告は,近畿財務局が抵当証券業登録の更新を拒否せずに保留としたことを指摘するが,更新保留は,更新拒否事由が存在しないと判断したことを意味するものではなく,更新してもよいかどうか,拒否事由に該当する事由があるかどうかを検討中であることを意味するのであって,直ちに更新できるような財務内容とはいえず更新拒否のための実質的な審査を実施するための期間を要することからとられた異例の措置である。
そして,平成9年当時の新聞記事からすれば,平成9年12月21日になされた更新は,業務の改善を期待したものと判断されるべきであり,その後の更新時において,業務改善の進捗の有無が厳しく吟味されるはずであるところ,その際に保留という異例の措置がとられたことは,大和都市管財の業務が,過去に業務改善命令を受けながら改善されなかったことの証左であった。
また,被告は,抵当証券業登録の更新保留期間中も営業を継続することが可能であるというが,それは抵当証券業法上の営業継続の可否の問題であり,読者に被害が及ぶ可能性を認識すべきこととは異なる。
A 報道の態様について
被告は,更新の保留については,毎日,産経及び朝日の各新聞に記事がなかったし,読売及び日経においても扱いが小さく事件性がないものであった旨主張する。
しかし,被告は,その当時,読売及び日経の新聞記事を知っていたのであり,中日新聞に過去7年間にわたって多数回広告を掲載し続けていた影響から,中部地区における多くの読者に損害を及ぼす可能性があることは当然認識し得たはずである。
なお,読売新聞の記事の「営業に支障はない」という部分は,近畿財務局の見解として触れられているわけではない。
B クレーム等がなかったことについて
被告は,読者などから大和都市管財に関する苦情・クレーム等は寄せられておらず,取付け騒ぎも起こっていなかったと主張する。
しかし,大和都市管財が組織的かつ計画的に詐欺的な抵当証券業を継続していたため,読者からのクレームや取付け騒ぎが発生せず,被害が顕在化しなかっただけである。
また,クレーム等の有無は,大和都市管財の財務内容が安定していることや,同社が違法行為を行っていないことには結び付かない。
C 大和都市管財の見解の確認等について
被告は,アド・イーグルを通じて,大和都市管財の見解を確認したというが,自ら取材活動をせず,広告主である大和都市管財の見解を鵜呑みにしたもので,報道機関として軽率としかいいようがない。
Dが更新される見通しであると語っていたとしても,前記(a)@の,近畿財務局はさらに検査を進め,更新を認めるかどうか慎重に判断するものとみられるとの記事内容とは相容れないし,被告は,Dに対して大和都市管財の現況や財務局との間のすり合わせの具体的内容を全く確認しておらず,Dの言を特に信じるべき特別の事情もなかった。
広告会社との信頼関係を偏重して読者との信頼関係を無視することは許されない。
被告の主張する広告会社との信頼関係は馴合いにほかならない。
(3) 被告の真実性調査確認義務違反
ア 上記(2)のとおり,被告は,平成9年10月31日(遅くとも平成12年12月22日)以降,大和都市管財の抵当証券の広告の内容について,その「真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務」を負っていた。
そして,この真実性調査確認義務とは,損害発生の予見可能性を前提として,新聞社が,事実を調査確認して読者に損害を及ぼすおそれがないことを確認した上で広告を掲載する義務,又は,その調査ができず若しくは十分に納得のいく調査結果が得られないのであれば,広告掲載を取りやめるべき義務と理解すべきである。
なお,日本新聞協会の新聞広告掲載基準も,広告主に「疑い」(不当)があるかどうかを問題にしており,新聞広告倫理綱領も,単に違法な広告主,違法行為を行っている広告主による広告を排除すべきことを宣言しているのではなく,「違法又は不当な」広告を含めて排除すべきことを宣言している。
イ したがって,被告は,平成9年10月31日及び同年11月1日の新聞記事(遅くとも平成12年12月22日の新聞記事)により,大和都市管財の経営破綻,それによる抵当証券の利息・元本の支払・償還不能の事態を疑わせる事情を認識したのであるから,上記各記事が誤報であることが確認されたか,大和都市管財の抵当証券の安全性が確認されなければ広告掲載をすべきではなく,疑惑の払拭を大和都市管財に求め,それがなされない限り広告掲載を拒絶すべきだったのであり,このことは広告主である大和都市管財との関係においても容易に可能であった。
被告は,大和都市管財に対する事情聴取,財務諸表の提出依頼,近畿財務局等に対する照会,朝日新聞社に対する裏付調査,信用調査機関への調査依頼などの周辺調査を実施することは十分可能かつ容易であったのであり,仮に調査の結果,上記新聞の報道する事実等が把握できなくとも,広告掲載の継続を中止すれば足りたのである。
ウ 被告は,このような義務を負っていたにもかかわらず,大和都市管財に@商業登記簿謄本,A抵当証券業の免許証の写し,B会社案内のパンフレット,C広告原稿を提出させたのみで,大和都市管財の経営状況,商法の実態についての調査義務を果たさず,平成9年10月31日の業務改善命令の後,要審査事情(広告審査基準への適合性に疑義を生じさせ,従前どおり継続して広告を掲載することについて,検討を要すると被告が判断すべき事情)に当たるとして掲載を一時見合わせた大和都市管財の抵当証券の広告について,平成10年2月26日からその掲載を再開し,さらに,大和都市管財について抵当証券業登録の更新保留の措置がとられ,これについての報道がされた平成12年12月22日以降も,漫然と,大和都市管財の高配当をうたう誇大広告の掲載を継続して,大和都市管財の詐欺商法を幇助した。
よって,被告は,真実性調査確認義務に違反したといわざるを得ない。
(被告の主張)
(1) 被告の注意義務について
ア 広告媒体の注意義務について
広告表現も憲法上の表現行為として,その自由が保障されなければならず,それが虚偽,欺瞞ないし誤導的なものでない限り,伝達の自由及び社会の知る権利という見地から,みだりに規制を受けてはならない。
新聞社等は,その業界で通常行われている注意を払っても,なお予期し得ないような損害の発生についてまで責任を問われるものではなく,新聞社等の広告媒体は,原則として,故意又はそれに近い重大な過失があった場合でなければ,広告内容に対して法的な責任を負わない。
このことは,広告表現が虚偽,欺瞞ないし誤導的なものであることが事後的に判明したとしても,広告掲載当時,広告媒体がそれを認識し得なかった場合には,その責任を問われることがないことをも含意している。
すなわち,広告媒体は,@広告内容からみて,広告主が犯罪行為その他重大な違法行為をする可能性があって,このことを認識していた場合,又は,A商品やサービスの促進のため広告内容の企画に関わるとか,広告制作に関与したり,又は広告内容を推薦したり保証しようとしたような場合には,法的責任を問われることになるが,そのような場合でなければ,掲載された広告に対して,いかなる法的責任も課されるべきではない。
イ 被告の注意義務の高度性について
(ア) 原告らは,中日新聞が,クオリティペーパーとしての評価を受けており,東海三県において圧倒的なシェアを有していることから,広告の掲載に当たっては,新聞社としての一般的な注意義務にとどまらず,より高度な注意義務を負うと主張する。
しかし,クオリティペーパーとしての評価と圧倒的なシェアが直ちに高度の注意義務につながるものではない。
一般的に,新聞読者は,信頼性の高い新聞についても,全ての広告の広告主が倒産等のおそれがなく常に適法な商品やサービスを提供するとはいえないことを熟知している。
したがって,一般論として,信頼性の高い新聞紙に掲載された広告を読んだ読者が,信頼性の高い新聞紙に広告が掲載された事実のみをもって,広告主たる企業そのもの,あるいは,その商品自体を信頼するとはいえない。
(イ) 被告が広範な取材・情報収集能力を有していることは認めるが,それは主として編集部門における本文記事に関する場合であって,広告に関しては極めて限定的である。
ウ 抵当証券業に関する広告掲載における注意義務について
(ア) 新聞広告倫理綱領は,新聞社が負う法的義務を定めたものではない。
また,原告らは,「広告表示の基礎知識」は,法律に基づいて適法に業務を行っているかどうか,元本及び利息の確実性などについて具体的かつ厳格に審査すべきであると指摘している旨主張するが,これは原告らに都合の良い曲解である。「広告表示の基礎知識」は,原告らが主張するような審査まで要求するものではなく,抵当証券業の広告についてのみ特段に厳格な審査基準を設けているわけではない。
(イ) 抵当証券及びそのモーゲージ証書の販売について,昭和61年には空売りなどの被害があったこと,その後抵当証券業法による規制がされるようになったが,バブル経済が崩壊した状況では,金融機関系列の抵当証券業者の抵当証券といえども,元本保証が著しく困難となり,元本割れが避けられない事態も生じ得ることについて,報道機関が一般論として認識していたことは認めるが,各抵当証券業者の発行する抵当証券が内包する元本割れに関する個別の具体的なリスクについてまで認識していたものではない。
エ 原告らが援用する最高裁判決は,「元来新聞広告は取引について一つの情報を提供するものにすぎず,読者らが右広告を見たことと当該広告に係る取引をすることとの間には必然的な関係があるということはできず」,「広告掲載に当たり広告内容の真実性を予め十分に調査確認した上でなければ新聞紙上にその掲載をしてはならないとする一般的な法的義務が新聞社等にあるということはできない。」として,新聞社等の媒体には真実性の調査確認義務が原則としてないとした上で,例外として,「広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情」があり,かつ,「読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得た場合」という2つの要件を満たした場合に限り,「真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務」を認めているにすぎない。
そして,次の理由から,上記最高裁判決のいう「特別の事情」及び「損害予見事由」があって,新聞社等に真実性調査確認義務が課せられる例外的かつ特殊な場合は,極めて厳格に解さなければならない。
(ア) 新聞紙上への広告掲載の意義
新聞広告は,媒体が広告主から対価を得る点で一般情報の伝達とは異なるが,本紙のニュースや解説などでは得難い生活上必要な情報を読者に提供する役割を持っており,読者の知る権利を満たす上で不可欠のものである。のみならず,広告を掲載することは,広告主の営利的表現の自由として憲法上保障されるとともに,新聞社などの広告媒体の広告の掲載も,憲法上営利的表現の自由として保障されているのである。
また,新聞広告に掲載された情報が多くの読者の目に触れ,それを契機として需要が喚起されることなどにより,経済の流通及び発展がより活発となるのであるから,現代社会における経済的機能の面に着目しても,広告掲載の重要性は一層高まっているといえる。これらの点に鑑み,広告掲載が必要以上に制限されて情報流通及び経済の発展が阻害されることのないよう,新聞社などの広告媒体が負う法的責任の範囲は,極めて厳格に解されなければならない。
(イ) 新聞社の広告審査の実情
a 新聞社の広告審査は,信用調査会社の行う調査とは異なり,広告掲載の可否を判断する目的で広告審査基準への適合性を審査するものであり,その範囲で事実関係を調査するにすぎない。
すなわち,広告審査は,原則として,広告表示について書面により審査するものにすぎない。
これは,新聞社の広告審査が,次のような制約を伴うためである。
(a) 時間的制約
新聞社は,広告申込み件数が多いこと,タイムリーな掲載をしなければ広告掲載の意義が薄れてしまい,広告掲載需要が減少することから,長い時間を掛けて広告審査をすることはできず,広告審査基準への適合性の審査を超える審査を行うことは不可能である。
(b) 質的制約
新聞界においては,伝統的に編集部門と広告部門とは相互に独自性を保持すべきとされている。
その理由は,報道活動が恣意性を排除して独立性や公平性を確保するためには,同一媒体であっても編集部門と広告を含む経営部門とは可能な限り相互に独自性を保持する必要があり,他方,広告部門が編集部門の論調に関わりなく,広告主の責任において広告を掲載するためである。
したがって,編集部門が優れた取材・情報収集能力を有していても,広告部門が編集部門の能力を利用することは原則的にはないのであり,公式の情報交換ルートもない。このことはおよそすべての媒体に共通するところであり,広告内容について本文記事と同様の取材義務や注意義務があるとするのは,あまりにも非現実的である。
b 上記時間的・質的制約から,被告は,広告審査における審査の対象を,広告会社から提出された広告原稿,会社概要書及び会社登記簿謄本,並びに,社団法人関西広告審査協会(以下「関西広告審査協会」という。)から得られた審査結果等としており,一定の書類のみをもって審査を行っている。
このことは,要審査事情が生じた場合でも同様であるが,その場合は,要審査事情の内容を加味した上で広告掲載基準への適合性を審査することとなる。
広告主の経営状態又は財務内容についてまで広告審査を行った事例は,他の新聞社も含め,これまでに存在しない。
オ 被告の広告審査基準について
新聞社等が自主的に定める広告掲載基準や広告審査は,あくまで広告倫理の向上のための自主的措置なのであって,法的責任とは範疇を異にするものである。
したがって,仮に,被告が広告掲載基準への適合性を審査しなかったとしても,直ちに法的責任が生じるものではない。
もし,広告審査基準が法的規範として作用するならば,審査が厳しいほど責任が重くなることにもなりかねず,自主規制の意味と役割は根底から否定されることになる。
(2) 被告の真実性調査確認義務の発生について
ア 誇大表示について
抵当証券の利率は,各抵当証券業者の経営・財務状態や事業方針により当然異なるのであるから,大和都市管財の広告のうたう利率が誇大表示であるとはいえない。
なお,平成5年12月8日の中日新聞の記事は,「A社のようなケースについて,近畿財務局では,『安全性については結局,投資家が自分で判断するよりない』(金融第三課抵当証券班)と,“自己責任”を強調している」とするもので,読者の疑問に答える形で書かれた,投資家の自己責任を強調する内容の記事である。
イ 大和都市管財の経営実態の認識可能性について
(ア) 広告掲載開始から中止までの経緯
a 平成5年8月ころ,大和都市管財からアド・イーグル,総合広告を通じて,被告大阪支社に抵当証券の広告掲載の申込みがされた。
被告大阪支社広告部の担当者は,申込みのされた広告が抵当証券という金融商品に関するものであったため,広告掲載の可否を直ちに判断せず,被告大阪支社広告部の協議に持ち込んだ。
そして,同広告部においても,内部協議だけでは判断が困難であったことから,他紙の情報を収集したほか,関西広告審査協会に対して,大和都市管財についての過去の審査例がないかを口頭で問い合わせた。
その結果,既に他の新聞社が関西広告審査協会に対して大和都市管財に関する審査を依頼しており,平成3年11月に「判定B」(「広告主の業態,広告の内容には問題はないが,表示の訂正が必要」なもの)という審査結果を出していることが判明した。
そして,被告大阪支社広告部は,広告掲載の申込みが抵当証券という特殊な金融商品についてのものであったこと,関西広告審査協会の審査結果が約2年前のものであったことから,より高度な判断を求めて,被告名古屋本社広告局整理部審査課に回付することとした。
審査課は,大和都市管財が抵当証券業法上の登録会社であり,近畿財務局の監督に服して営業を行う業者であることを確認し,広告原稿にも,抵当証券業登録簿に登録した商号が用いられていることを確認した。
また,審査課は,広告原稿に記載された利率の表示が年3ないし5パーセントであったこと,元本・利息の支払の確実性について保証するという記載であり,抵当証券の広告で通常用いられる表示と同様であったことから,他の抵当証券の広告に比して社会的に過剰と思われるような誇大な表示はないと判断した。
さらに,審査課は,国民生活センターなどに対して苦情・クレーム等がないこと,被告にも大和都市管財に関する苦情・クレーム等が届いていないことを確認し,詐欺的商法又は不良商法を推認させるような客観的事象も生じていないと判断した。
さらに,審査課は,他の新聞社が,関西広告審査協会に対して大和都市管財に関する審査を依頼し,「判定B」との審査結果を得て,表示の訂正を行った上で大和都市管財の抵当証券に関する広告を掲載していたことが判明したため,その広告内容も判断材料とした。
被告は,これらの手続を踏み,上記の諸事情を総合的に判断した結果,大和都市管財の抵当証券の広告は広告掲載基準に適合するものであり,掲載することが妥当であると判断して,平成5年9月22日より,その掲載を開始した。
b 広告掲載開始から平成9年10月31日までの経緯大和都市管財の広告については,読者から被告あるいは国民生活センターに対してのクレーム等,要審査事情に該当する事情が生じなかった。
なお,平成5年12月8日の中日新聞の記事は,前記アのとおり,投資家の自己責任を強調し,読者を啓発する内容のものであり,要審査事情に該当するものではなかった。そして,被告の広告審査担当者は,上記記事の内容以上の詳細な事実関係を認識していなかった。
また,モーゲージ証書の販売方式による抵当証券商法について過去に詐欺事件が発生していたこと,被告が同種の事件の報道をしていたことは認めるが,上記記事の後に被告が中日新聞に掲載した抵当証券に関する記事は,いずれも大和都市管財を念頭に置いた記事ではなかった。
そこで,被告は,平成9年10月31日までの間,継続して大和都市管財の抵当証券の広告を掲載した。
c 広告掲載の中止
被告は,平成9年10月31日及び同年11月1日の朝日新聞の記事における「大阪(市)の金融会社」が大和都市管財ではないかと疑った。
そして,上記各記事のうち,手形商法に関する記事については,その内容が真実であれば,手形商法と抵当証券とは直接の関連性はないものの,広告掲載基準に定められた「妥当性」の判断に影響を与えかねないと考えた。
そこで,被告は,上記各記事で報道された事情が広告掲載基準の適合性に疑義を生じる要審査事情に当たると判断し,事態を見極め広告掲載に関して慎重な判断をするために必要な相当の期間,大和都市管財の広告の掲載を拒否することとし,平成9年11月以降に掲載が予定されていた大和都市管財の広告の掲載を中止した。
(イ) 広告掲載の再開
a 被告は,大和都市管財の広告の掲載を中止した後においても,アド・イーグルから総合広告を通じて,大和都市管財の広告掲載を申し込まれたが,行政当局あるいは警察当局が大和都市管財に対してどのような処分を行うのかについての見通しが立たない限り,大和都市管財の広告の掲載を妥当と判断することはできないと考え,広告掲載を拒否していた。
b しかし,その後,被告は,審査のための必要書類(会社登記簿謄本,商品パンフレット及び広告原稿)をそろえ,次の諸事情を総合的に勘案して,大和都市管財の広告が被告の広告掲載基準に適合すると判断し,平成10年2月26日より,大和都市管財の広告掲載を再開した。
(a) 新聞記事の内容
平成9年10月31日の朝日新聞の記事は,手形預かり商法(約束の期日に利息を付けて買い戻す条件で手形を顧客に販売するが,その手形は販売会社が保管する「利回り商法」)の問題性を報じるものであり,他方,抵当証券は,不動産に設定した担保権を有価証券化して投資家に販売するものであるから,その仕組みは手形預かり商法とは異なっている。
したがって,上記記事は,直ちに抵当証券に結びつくものではなかった。なお,各紙の広告担当者の間でも,上記記事は,あくまで手形商法に関する問題にすぎないという認識であった。
また,同年10月31日及び同年11月1日の新聞記事は,「出資法にも触れかねない」,「出資法に抵触しかねない」,「大蔵省近畿財務局は同社に対し,『本来の業務になじまず,好ましくない』と指摘」などとしているにすぎず,大和都市管財が法に抵触する商法を行っていることを報じたものではないし,「捜査当局も強い関心を寄せている」とあるが,捜査当局が捜査に乗り出すことを伝えるものでもなかった。
(b) 業務内容の改善
被告は,平成9年10月31日の時点において,大和都市管財が近畿財務局から,抵当証券の購入者の利益を害する事実があると認められ,業務改善命令を発せられたことは認識していたが,業務改善命令が発せられれば,それに従わない場合には罰則が科されるため,一定期間の経過により業務内容は改善されていると判断した。
また,大和都市管財に対し業務改善命令が発令されてから2か月も経過しない同年12月21日,業務内容を調査する権限と責任を有する近畿財務局が,大和都市管財の抵当証券業登録を更新したが,これは,大和都市管財の資本及び出資の額が「抵当証券の購入者を保護するため必要かつ適当と認められる金額として政令で定める金額」(抵当証券業法8条2項,6条1項2号)を満たしており,かつ,大和都市管財が「抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成」を有する法人(同法8条2項,6条1項7号)であると認められたことを意味する。
そして,被告は,アド・イーグルより,この事実を知らされていた。
(c) 続報記事がなかったこと
朝日新聞を始めとする他紙に,大和都市管財の手形預かり商法及び業務改善命令に関する続報記事は全く掲載されなかった。
(d) クレーム等がなかったこと
大和都市管財に何か問題が生じていれば,読者から広告を掲載した被告に対し,クレームが寄せられたはずであるが,被告にそうしたクレームは届いていなかったし,取り付け騒ぎも一切起こっていなかった。
読者からのクレームがなかったことは,読売新聞が「手形の買い戻しなどをめぐって顧客とのトラブルはない」と報じていることからも明らかであった。
(e) Cの抗議
被告大阪支社広報部担当者は,平成9年11月10日ころ,アド・イーグルのDから,同年10月31日及び同年11月1日の朝日新聞の記事が大和都市管財を指すものであること,及び,Cが,朝日新聞大阪本社に赴き,手形預かり商法に関しては見解の相違であり,業務改善命令に関してはこれを受けておらず,事実に反するとして抗議したことを聞いた。
なお,被告は,アド・イーグルが大和都市グループに関する広告掲載の代理業務を一手に引き受けており,大和都市管財について最もよく知っている広告会社であったこと,被告とアド・イーグルとの間に取引上の信頼関係が構築されていたこと,及び,被告は,大和都市管財の抵当証券の広告掲載開始直後から,複数回にわたりCに面会を申し込んでいたが応じてもらえなかったため,Cと面会することはできないと認識していたことなどの事情から,アド・イーグルから聞いた抗議内容について,その真偽をそれ以上確かめるための積極的措置は講じなかった。
(f) 他紙の広告掲載の再開
被告は,読売新聞東京本社(以下「東京読売」という。)が大和都市管財の抵当証券の広告を掲載する予定であるとの情報を,中日新聞等に広告掲載を再開するよりも前の時点で,東京読売自身から得ていた。
そして,東京読売は,平成10年3月19日,大和都市管財の抵当証券の広告を掲載した。
なお,東京読売の広告審査が厳しいことは関西の広告業界ではいわば常識である。
また,近畿財務局が大和都市管財の抵当証券業登録を更新した平成9年12月21日よりも前の同月16日,他紙が大和都市管財の抵当証券の広告を掲載していた。
(g) 刑事・行政上の処分がなかったこと
大和都市管財は,行政及び刑事の両面で何らの処分も受けていなかった。
c 原告らの援用する最高裁判決のいう「広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情」とは,「真実性調査確認義務」という法的義務を導き出す程度の事情をいうものであり,「読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得た場合」という二つ目の要件と相まって,「読者らに不測の損害を及ぼすおそれ」がある程度に広告内容の真実性に重大な疑念を及ぼすと判断すべき特別の事情のみを意味するものと解される。
そして,上記bの諸事情からすれば,前提となる事実(3)アの新聞記事で報じられた事情は,読者らに不測の損害を及ぼすおそれがある程度に真実性に重大な疑念を及ぼすと判断すべき特別の事情ではなかった。
なお,大和都市管財の従業員ないし関係者からの内部告発文書は,被告には届いていなかった。
よって,被告に,大和都市管財の抵当証券に関する広告内容の真実性を調査確認する義務はなかった。
(ウ) 平成12年12月22日以降の広告掲載の継続
a 被告は,平成12年12月22日,大和都市管財の抵当証券業登録の更新が保留された旨を報じる新聞記事が掲載されたことを受けて,被告大阪支社広告部において協議し,次の諸事情を総合的に勘案して,大和都市管財の広告は被告の広告掲載基準に適合すると判断し,その掲載を継続した。
(a) 更新拒否ではなく営業の継続が可能であったこと
近畿財務局は,平成12年12月21日,大和都市管財の抵当証券業登録の更新を保留したが,あくまで保留であって更新拒否ではなかった。
近畿財務局は,大和都市管財に対して広い調査権限を有しており,更新拒否事由に該当する事実があると判断した場合には,直ちに更新を拒否したものと考えられるところ,更新拒否事由の存在が明白ではないと判断して,保留という異例の措置をとったものと思われる。
そして,抵当証券業登録の更新保留は,抵当証券業者としての業務停止を伴うものではなく,保留期間中も財務局の監督のもと営業を継続し得るのであり,大和都市管財は,営業を継続しその広告を掲載することを法律上禁止されていなかった。
(b) 報道の態様
大和都市管財の抵当証券業登録の更新保留に関する記事が掲載されたのは,平成12年12月22日の読売新聞大阪版及び日経新聞近畿経済版のみであり,金融の業界紙である「日経金融新聞」でも全く取り上げられていなかった。
そして,いずれの記事も,平成9年の業務改善命令についての記事とは異なり扱いが小さく,その内容も,大和都市管財の営業内容の違法性を指摘するものではなく,大和都市管財の破綻を予期させたり,顧客に損害を与える危険性を指摘する記載は一切なかった。
そして,読売新聞の記事中の「期限が過ぎた20日以降も前期の登録が有効で営業に支障はない」という部分は,近畿財務局のコメントを読売新聞社が取材して記事にしたものと読むべきものであった。
(c) クレーム等がなかったこと
読者等から被告に対し,大和都市管財に関する抵当証券の利払い・償還の不履行等に関する苦情・クレーム等は寄せられておらず,取り付け騒ぎも起こっていなかった。
(d) 大和都市管財の見解の確認等
被告は,アド・イーグルを通じて,「近畿財務局と見解の相違のすりあわせを行っている。」,「登録更新の許可が下りるはずである。」という大和都市管財の見解を確認した。
さらに,被告は,平成12年12月22日以降,大和都市管財から広告掲載の申込みがされる都度,大和都市管財に対し,登録更新に関する動向を尋ねていたが,大和都市管財は,登録更新される方向で進んでいると報告してきた。
なお,被告は,大和都市管財のCに対し面会を申し込んだが,これを断られた。
また,法人の純資産額の算定は,単純な事実関係の確認ではなく,高度に専門的な知識と経験を必要とする評価を伴う作業であるから,財務局と大和都市管財との間で争われていた純資産額の評価に関する争いの内容をDに尋ねたとしても,その真偽を確認することは不可能であった。
また,被告と大和都市管財との間には7年間にわたる取引関係に基づく信頼関係が構築されていた。
すなわち,大和都市管財は,広告掲載料の不払いもなく,被告は,中日新聞の読者が大和都市管財の抵当証券を購入して金銭的な被害を受けたという事例を確認できなかった。
もっとも,被告と広告会社との間に馴れ合いがあったわけではなく,被告が平成12年末にGFPシュアーファンドの広告掲載を拒否したこと,平成9年に大和都市管財が業務改善命令を受けた後に,大和都市管財の抵当証券に関する広告の掲載を一時中止したことがその証である。
(e) 続報記事がなかったこと
平成9年10月31日以降,他紙に出資法違反に関する続報記事は掲載されていなかった。
b 近畿財務局は,立入検査等の権限を有しており(抵当証券業法22条),登録された抵当証券業者が同法6条1項に定める事由を満たす場合,登録の更新を拒否することが義務付けられているところ(同法8条2項・6条1項),大和都市管財について,登録の更新を拒否せず「保留」にとどめたのである。
これは,近畿財務局が,大和都市管財の「資本又は出資の額が抵当証券の購入者を保護するため必要かつ適当と認められる金額として政令で定める金額に満たない」ものとは判断していないことを意味する。
そして,何ら調査権限を有せず極めて限られた情報しか有していない被告には,大和都市管財の資本額が,更新を拒否されるようなレベルのものだと判断することなどできるはずもなかった。
また,更新保留期間中の抵当証券業登録は有効であり(同法8条3項),その後に登録が更新された場合には,更新後の有効期間については,「従前のその登録の有効期間の満了の日の翌日から起算する」(同法8条4項)と定められており,このことは,抵当証券業法が更新の保留を種々の理由で行うことを予定していることを意味する。
このように,保留は直ちに破綻に結びつくものではなく,保留をもって大和都市管財が破綻に瀕するなどの危機的状況にあることを予見することはおよそ不可能である。
この点について,原告らは,平成9年の記事と併せて考えるべきであったと主張するが,平成10年2月26日の広告掲載再開から既に約3年を経過していたこと等の事情からすれば,原告らの主張は不合理であるといわざるを得ない。
したがって,平成12年12月22日の抵当証券業登録の更新保留という事情は,読者らに不測の損害を及ぼすおそれがある程度に真実性に重大な疑念を及ぼすと判断すべき特別の事情には該当しない。
なお,大和都市管財の従業員ないし関係者からの内部告発文書は,被告には届いていなかった。
このように,被告において,広告掲載を中止すべきほどに大和都市管財の経営状態が悪化していると判断するに足りる特別の事情を見出すことは不可能に等しいことであったし,被告が大和都市管財の広告を掲載することによって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見しておらず,また予見し得なかったことは明らかである。
よって,被告に,大和都市管財の抵当証券に関する広告内容の真実性を調査確認する義務はなかった。
(3) 真実性調査確認義務違反について
ア 新聞紙上における広告掲載の意義と新聞社の広告審査の実情からすれば,真実性調査確認義務は極めて厳格に解さなければならない。
真実性調査確認義務は,広告表示上の記載について生じた「読者らに不測の損害を及ぼすおそれ」が存する程度の真実性に関する重大な疑義について,当該特別の事情の程度に応じて,読者らの損害を回避するために必要かつ新聞社の広告部門がなし得る範囲で,合理的な手段を用いて調査を行うべき義務をいうものである。
したがって,新聞社には,広告表示とは関係のない広告主の財務内容を調査すべき義務はそもそもないし,また,当該広告主を所管する監督官庁と同レベルの調査権限を持ち得ない以上,新聞社が特別の事情が解消されたと合理的に判断することができる事情を調査ないし確認すれば足りるのである。
イ これに対し,原告らは,広告主の財務内容まで調査する義務があると主張する。
しかし,新聞社等の広告媒体は,広告主の財務内容を調査する手段を持ち合わせていない。
一見して違法・不当な表現や内容の広告はもちろん,読者に被害が及びそうな広告は,被告独自にあるいは審査協会において厳重にチェックされているのであって,それを超えた調査確認義務を被告に負わせるのは,不可能を強いるものである。
原告らの主張を認めることは,新聞社の広告掲載に萎縮的効果をもたらし,読者らの知る権利,広告主及び新聞社の営利的表現の自由を侵害し,経済の円滑な発展をも困難にする。
(ア) 被告が近畿財務局,抵当証券業協会又は財団法人抵当証券保管機構(以下「抵当証券保管機構」という。)に対し,大和都市管財の財務状況について問い合わせたとしても,これらの機関・法人は,大和都市管財の財務状況を把握していないか,把握していたとしても守秘義務の関係で当該情報を開示することはできなかった。
(イ) 抵当証券業法17条(同法施行規則14条)における書類の閲覧は,「顧客の求めに応じ」,顧客に対して閲覧させる旨を定めるものであり,新聞社等の広告媒体に対して閲覧を認めるものではなく,真実性調査確認義務の内容とはなり得ない。
また,新聞社の広告部が,広告主の営業所等に赴き,抵当証券業法に定める書類を閲覧することを真実性調査確認義務として課するのは,新聞社の広告部の負担を著しく重くし,新聞社一般の実務を著しく阻害するおそれがある。
(ウ) 前記のとおり,新聞社においては,広告の掲載の可否を判断するために,編集部門が取材活動を行うことはなく,編集部門の情報収集能力を利用する義務はない。
ウ 仮に,被告に法的義務としての真実性調査確認義務が課されるとしても,被告は,特別の事情が解消されたと合理的に判断することができる事情を調査ないし確認したのであるから,被告に,原告らが被ったと主張する損害を回避するための真実性調査確認義務の違反はない。
3 争点2(損害及び因果関係の存否)
(原告らの主張)
(1) 損害
原告らは,いずれも平成9年11月1日以降に中日新聞に掲載された広告を見て,大和都市管財の抵当証券を,それぞれに対応する別紙原告損害金一覧表「抵当証券購入時期」欄記載の日に,同表「損害額」欄記載の代金で購入したものであるが,大和都市管財の破綻により,元金の償還を受けることができなくなった。
今後,原告らには抵当証券保管機構による競売手続等による配当が見込まれるが,配当予想額の大部分は数パーセントにとどまる見込みであり,原告らが抵当証券購入額のおよそ90パーセント程度の損害を被ることは必至である。
(2) 因果関係
ア 因果関係の問題は,広告内容の真実性について社会通念上疑念を抱くべき特別の事情の存在と,読者に不測の損害を及ぼすおそれの予見可能性に集約され,被告に真実性調査確認義務が認められれば,因果関係については原則として認められる。
そして,この場合,広告掲載と広告を見た読者が損害を被るに至る経過に,様々な要因(例えば,セールスマンの勧誘,読者自身の判断等)が介在することを前提としても,それらの要因が因果の流れを中断しているとの立証がない限り,広告媒体は責任を免れないものというべきである。
イ 仮にそうでないとしても,次のような事情からすると,被告が大和都市管財の経営破綻を容易に予見可能であったにもかかわらず,それについての調査義務を怠り,漫然と大和都市管財の抵当証券の広告を掲載したことと,原告らの損害の発生との間には「濃密な関係」があり,相当因果関係がある。
(ア) 原告らは,中日新聞の広告を見て初めて大和都市管財の存在を知ったか,あるいは,地元のクオリティペーパーであり原告らが最も信頼している中日新聞に長期間にわたり継続的に多数回掲載されている広告を見て,大和都市管財を信用できる会社だと考え,大和都市管財の抵当証券を購入するに至ったのである。
原告らの中で,大和都市管財の営業担当者に抵当証券購入の勧誘をされた際,「中日新聞にも広告が掲載されている会社だから安心」と言われたり,中日新聞の広告を見せられたりした者は多数に及ぶ。
(イ) 抵当証券の購入者は,その仕組みを十分に理解することなく,広告にうたわれている元利金の保証を額面どおりに受け取り,必ず元本保証される安全な商品であるとの認識を持つ場合が多く,ハイリスクの商品との認識は乏しい。
そして,抵当証券の安全性を確認する手段としては当該抵当証券業者やその融資先の経営状態を調べる必要があるところ,それを一般投資家が実行するのは困難であるから,信頼できる媒体に広告が掲載されているということが最も重要な信頼性判断の要素であり,購入の動機となっているのである。
(ウ) 金融商品は種類ごとに画一的であり,不動産売買のように個別に売買条件について交渉がされることはなく,販売会社担当者の説明も広告内容と比べ過不足が存しないのが原則であり,広告と売買契約との一致性が極めて緊密である。
本件においても,大和都市管財は個別訪問・電話勧誘ではなく広告への問合せを契機として販売活動をしていたところ,問合せに対する営業マンの説明は広告において掲載された内容の枠を出るものではなかった。
また,金融商品の購入決定要因は元本保証の有無,高利息の支払約束などの利回りとしての有利性,当該企業の信頼性などにほぼ尽きるところ,大和都市管財の抵当証券の広告においては,元本保証,年利3ないし5.5パーセントの高金利,大和都市管財による元利支払保証,法務局発行の抵当証券,財務局への登録などの表示がされ,購入決定要因の表示がほぼ尽くされていた。
したがって,原告らは,中日新聞に掲載された広告を見た時点において,大和都市管財の抵当証券の実質的購入意思を形成したのであり,販売員からの説明によって広告内容を再確認したにすぎず,広告内容どおりの抵当証券購入契約を締結したのである。
ウ なお,契約における意思決定要因は複合的なものであることの方が一般的であり,契約に至る説明・情報開示が十分に尽くされず,冷静かつ自由な意思決定が歪められた場合には,不法行為に基づく損害賠償請求が可能であり,「高金利」,「財務局などの関与により安全」などが購入判断の要素の一つを構成することは,何ら因果関係の否定につながるものではない。
また,原告らの中には,大和都市管財の抵当証券を購入する以前に抵当証券を購入したことがある者もいるが,初めて大和都市管財から抵当証券を購入したのは平成9年11月1日以降であり,中日新聞に掲載された大和都市管財の広告を契機として購入に至ったことには何ら変わりがない。
さらに,原告らの中には,他の金融商品への買換をさせられた者も存在するが,本件請求は抵当証券購入分に限っていることから,買換えと因果関係の問題は関連性がない。
(3) したがって,被告は原告らに対し,前記(1)のとおり償還不能となった金額全額について,不法行為に基づく損害賠償責任を負うところ,原告らは,被告に対し,それぞれ被った損害のうち15パーセントに相当する額(内10パーセントが弁護士費用)の内金請求をするものである。
なお,上記のとおり,原告らは,損害額の15パーセント相当額の内金請求をするものであるから,抵当証券購入後利息の支払を受けていたとしても,賠償額の減額要因とはならない。
また,仮に原告らの過失を考慮したとしても,本件請求はすべて認容されるべきである。
(被告の主張)
(1) 損害について
不知。
(2) 因果関係について
ア 民法の不法行為責任の要件に関する原則論からいえば,原告らにおいて相当因果関係を立証すべきであり,それを基礎付ける事実及び証拠は原告らの支配下にあるのであって,立証責任を転換する論拠はない。
イ 原告I,同J,同K及び同Lについては,陳述書において,「大和都市管財を知った経緯」,「購入の決定要因」で中日新聞との関係を挙げておらず,因果関係はあらゆる面で全く存在しない。
また,他の原告らが中日新聞に掲載された広告を契機として大和都市管財の抵当証券の存在を認識するに至ったとしても,陳述書において,「購入の決定要因」として中日新聞を挙げていない22名の原告については,被告の広告掲載と損害との間に因果関係は存在しない。
ウ 仮にその他の原告らが中日新聞に掲載された広告を見たことを契機として大和都市管財の抵当証券を購入したとしても,それは単なる事実的因果関係の一部にすぎないのであって,被告の広告掲載と原告らの損害との間に相当因果関係はない。
被告に損害賠償責任を負わせるためには,原告らが主体的に選択した結果として被った具体的な損害について,被告の関わり合い方が深く,損害の賠償を義務付けることがふさわしいと判断されるような濃密な関係ないし状況が存在することが必要である。
ところが,被告の広告掲載行為自体は,新聞社がその責任において商品,サービス等を推奨したり,勧誘したりするものではない。
また,抵当証券などリスクの高い金融商品を購入する動機・機縁は,単に新聞広告を見たからというような単純なものではなく,購入者は,当該金融商品販売会社や証券会社などの勧誘・説明や知人の誘いのほか,購入者独自の情報等,複合的な事情を総合して慎重に検討した結果,購入に至るのが一般であって,抵当証券の購入には,購入者の主体的意思が大きく介入する。
すなわち,原告らは,抵当証券には高いリスクが伴うことを承知の上で,高利率への期待を決め手として,自らの選択で大和都市管財の抵当証券を購入したのであって,被告による広告の掲載と原告らの主張する損害との間には,原告ら自身の主体的意思に基づく行為が介在していたのである。
したがって,被告が大和都市管財の抵当証券の広告を掲載したことと原告らの主張する損害との間には,被告が責任を負わなければならないほどの濃密な関係は存在しない。
なお,原告らは,広告が長期間にわたり継続して多数回掲載されたという点を指摘するが,広告掲載の多寡は,ある程度購入意欲に影響を及ぼす場合もあるかもしれないが,原告らの損害との間の必然性は極めて希薄である。
そして,抵当証券の買換えを行っていた原告らについては,因果関係は更に希薄となる。
被告の広告掲載と買換えとの間には,利息が滞りなく支払われたことなどの更なる付加的事情が大きく影響し,それによる原告らの主体的行為が介在するからである。

第3 当裁判所の判断

1 被告の注意義務について
(1) 新聞広告は,元来,取引について一つの情報を提供するものにすぎず,読者らが当該広告を見たことと当該広告に係る取引をすることとの間には必然的な関係があるということはできないから,広告掲載に当たり広告内容の真実性を予め十分に調査確認した上でなければ新聞紙上にその掲載をしてはならないとする一般的な法的義務が新聞社にあるということはできない。
しかしながら,新聞広告は新聞紙上への掲載行為によって初めて実現されるものであり,当該広告に対する読者らの信頼は,高い情報収集能力を有する当該新聞社の報道記事に対する信頼と全く無関係に存在するものではなく,広告媒体業務にも携わる新聞社としては,新聞広告のもつ影響力の大きさに照らし,広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得た場合には,真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務があり,その限りにおいて,新聞広告に対する読者らの信頼を保護する必要があると解すべきである。(最高裁判所昭和59年(オ)第1129号平成元年9月19日第三小法廷判決・裁判集民事157号601頁参照)
したがって,被告は,中日新聞紙上への広告掲載に当たり,上記のような義務を負うものというべきである。
そして,一般に,新聞社が発行して新聞紙とともに配布する情報誌に掲載された広告に対する読者らの信頼は,新聞広告に対するよりも高いものではないと考えられるから,ショッパーへの広告掲載に当たって被告が負う義務は,上記の程度を超えるものではないというべきである。
(2) これに対し,被告は,広告媒体は,@広告内容からみて,広告主が犯罪行為その他重大な違法行為をする可能性があって,このことを認識していた場合,A商品やサービスの促進のため広告内容の企画に関わるとか,広告制作に関与したり,又は広告内容を推薦したり保証しようとしたような場合でなければ,掲載した広告について,いかなる法的責任も課されるべきではないと主張する。
しかしながら,新聞社が広告の掲載に当たって負う注意義務をこのように限定すると,広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得たにもかかわらず,真実性の調査確認をして虚偽広告を読者らに提供してはならない義務が生じない場合があることになるが,被告の主張する広告主や広告媒体業務に携わる新聞社の表現の自由,読者らの知る権利を考慮したとしても,新聞広告に対する読者らの信頼を保護すべき要請との調和の観点からすれば,かかる限定を加えることが妥当であるとは解し難い。
したがって,被告の上記主張は採用できない。
(3) 他方,原告らは,上記(1)と同様の義務を新聞社の広告掲載に関する一般的な注意義務であるとし,本件における被告の注意義務違反の有無を判断するについては,この基準によるべきであるとする一方で,被告の負う注意義務は新聞社としての一般的な義務にとどまらず,より高度なものである旨の主張もしていることから,この点について検討する。
ア 原告らは,中日新聞が,中部地区において圧倒的なシェアを誇り,クオリティペーパーとしての評価を受けていて,読者に対し広範かつ極めて多大な影響力を及ぼしていること,被告が高い情報収集能力を有していることを理由として,被告は,広告の掲載に当たり,新聞社としての一般的な注意義務にとどまらず,より高度な注意義務を負っている旨主張する。
しかしながら,新聞広告は広告商品の唯一の情報源ではなく,購入者は広告主に対し,取引内容についての詳しい資料の提供や説明を求めることができ,商品の購入をしない自由を有しているのであって,このことは,中日新聞が,中部地区において圧倒的なシェアを誇り,クオリティペーパーとしての評価を受けており,それ故に,同新聞紙上に掲載された広告の効果が大きいとしても,格別差異を生じるものではないと解されるから,中日新聞に掲載された広告に商品の購入に対する必然的な影響力があるということはできない。
また,被告が高い情報収集能力を有しているとしても,そのことから直ちに,被告が前記(1)の内容を超える法的義務を負うものとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
イ また,原告らは,新聞広告倫理綱領や「広告表示の基礎知識」の内容に触れた上で,特に,抵当証券業者の破綻・倒産が相次いだ平成7年秋以降は,新聞社である被告が抵当証券の元本保証の確実性等をうたう広告を掲載するに当たって負う,広告内容の真実性を調査確認する注意義務は,一層加重されたと主張する。
しかしながら,新聞広告倫理綱領や「広告表示の基礎知識」は,各新聞社が広告を掲載するに当たって依るべき倫理的規範ないし指針を示したものというべきであるから,これをもって直ちに,被告の負う法的義務の内容・程度を示すものということはできない。
また,抵当証券業者の破綻・倒産が相次いだこと等の事情は,広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し又は予見しえたか否か,及び,真実性調査確認義務の内容・程度を判断する上で考慮すべき事情の一つとなり得るとしても,新聞社が広告を掲載するに当たって負う注意義務の枠組みを変えるものではないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用できない。
(4) さらに,原告らは,被告の自ら設けた広告掲載基準違反は法的な違法性判断の要素の一つである旨主張する。
そして,前提となる事実(6)のとおり,被告は,平成10年2月26日以前から,独自の広告掲載基準を設けており,抵当証券の広告に関する細則も定めていた。
しかしながら,被告の広告審査基準は,被告が広告を掲載するに当たって依るべき倫理的規範ないし方針を自主的に定めたものであるから,これをもって,被告が広告の掲載に当たって負う法的義務の内容・程度を決するものとはいえない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
2 そこで,被告が,平成9年10月31日以降,中日新聞紙上に大和都市管財の販売する抵当証券に関する広告を掲載した際に,当該広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し又は予見しえたか否かについて,以下検討する。
(1) まず,証拠(甲1の1ないし68,2の1ないし4,4の91,5の1,5の4,8,9,41,乙23ないし26,28,31ないし34,証人D,同E,同F,同G,同H,同M及び原告本人N,近畿財務局,抵当証券業協会及び抵当証券保管機構に対する各調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨によれば,後記(2)ないし(4)において認定判断する前提として,次の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。
ア 広告掲載の状況
(ア) 被告は,平成5年8月ころ,大和都市管財からアド・イーグル,総合広告を通じて,抵当証券の広告掲載の申込みを受け,審査の結果,被告の広告掲載基準に適合し掲載することが妥当であると判断して,同年9月22日より中日新聞への掲載を開始した。
(イ) その後,被告は,大和都市管財の抵当証券の広告を継続して掲載していたが,平成9年10月31日及び同年11月1日の朝日新聞の記事(前提となる事実(3)ア)において報道された事情が,被告の広告掲載基準への適合性に疑義を生じる要審査事情に当たると判断して,同年11月以降に掲載が予定されていた広告の掲載を中止した。
(ウ) しかし,被告は,他紙が大和都市管財の抵当証券の広告を掲載するとの情報を得たことなどを契機として,再度の審査をした結果,大和都市管財の抵当証券の広告は被告の広告掲載基準に適合していると判断して,平成10年2月26日から,中日新聞等への掲載を再開した。
(エ) 被告は,平成12年12月22日の読売新聞及び日本経済新聞の記事(前提となる事実(3)イ)を受けて,大和都市管財の抵当証券の広告を掲載することについて内部で協議した結果,被告の広告掲載基準に適合していると判断して,中日新聞等への掲載を継続した。
イ 被告は,平成5年12月8日の中日新聞に,大和都市管財の抵当証券について,大和都市管財の社名を「A社」と伏せて,「3年物の抵当証券を年5.5%で販売しているのは,大阪市内に本社があるA社。銀行系や証券会社系の抵当証券会社だと3年物は年2.9%程度で販売されているので,A社の抵当証券は確かに相当な高利だ。」という記載のある記事を掲載した。
ウ 被告は,平成9年10月31日及び同年11月1日の朝日新聞朝刊の記事(前提となる事実(3)ア)について,当日,問題とされている会社が大和都市管財であることを知った。
エ 被告は,平成9年11月ころ,Dから,平成9年10月31日及び同年11月1日の新聞報道について,Cが,手形商法については大和都市管財の複数の顧問弁護士が合法であると言っており,法的解釈の問題であるし,業務改善命令は受けていないと主張して,朝日新聞社に抗議したことを聞いた。
オ 平成9年10月31日ないし同年11月2日の新聞報道(前提となる事実(3)ア)の後,朝日新聞を始めとする他紙に,大和都市グループの商法の違法性や経営内容の悪化についての続報記事も訂正記事も掲載されなかった(平成12年12月22日の新聞記事〔前提となる事実(3)イ〕を除く。)。
カ 大和都市管財は,平成13年4月16日に破綻するまで,継続して,販売した金融商品について,約定に従った利払いを実行し,顧客からの元本償還の要求にも応じていた。
(2) 広告内容について
前提となる事実(4)エのとおり,大和都市管財の抵当証券の広告は,平成9年以降変わることなく,1年満期のもので3.0パーセント,2年満期のもので3.5パーセント,3年満期のもので4.5パーセント,5年満期のもので5.5パーセントの利息の支払及び元本の償還を保証する旨の表示をしていた。
この点について,原告らは,平成8年以降の代表的な抵当証券業者の利率は,1年もので1パーセント,3年もので1.1ないし2.3パーセントにすぎず,大和都市管財の広告のうたう上記利率は社会的に過剰なものであった旨主張する。そして,証人Dは,大和都市管財が初めて中日新聞に広告掲載を申し込んだ当時,他の大手の抵当証券業者の利率は,1ないし1.5パーセントであった旨証言しており,また,上記(1)イのとおり,被告自身も,平成5年12月8日の中日新聞に,大和都市管財の抵当証券について,「銀行系や証券会社系の抵当証券会社だと3年物は年2.9%程度で販売されているので,A社(大和都市管財)の抵当証券は確かに相当な高利だ。」という記載のある記事を掲載していた。
しかしながら,大和都市管財の抵当証券の広告において表示されていた利率が,他の抵当証券業者の設定していた利率と比較して高いものであったとしても,抵当証券の利率は,抵当証券業者の経営状態や事業方針により異なり得るものであって,上記利率自体が抵当証券の利率としておよそあり得ないほど高いものであったと認めるに足りる証拠はなく,上記(1)カのとおり,大和都市管財は,販売した金融商品について,実際に,約定に従った利払い及び元本の償還を継続して実行していたことからすれば,上記広告当時,上記利率による利払いと元本の償還を保証する旨の表示が誇大であるとの疑念を抱くべきであったということはできない。
したがって,大和都市管財の抵当証券の広告内容自体に,その真実性に疑念を抱くべき特別の事情があり,被告において,読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得たということはできない。
(3) 平成10年2月26日から平成12年12月21日までの広告掲載時における大和都市管財の経営実態について
ア 広告掲載時の事情
(ア) 前提となる事実(2)ウ(ア)のとおり,近畿財務局は,大和都市管財に対し,平成9年6月から立入検査を実施し,平成9年10月31日,抵当証券の購入者の利益を害する事実があると判断して,業務改善命令を発出した。
そして,これらの事実は,前提となる事実(3)アのとおり,同年10月31日ないし同年11月2日に,朝日新聞,読売新聞及び毎日新聞において報道され,その記事には,「出資法にも触れかねない利回り商法を展開していた」,「販売総額は百数十億円になる」,「多くの手形は会社側が保管し,顧客に現物が渡らない『ペーパー商法』まがいの手法をとっており,大半の客が被害を受ける恐れがあるため,大蔵省近畿財務局は6月から異例の長期の立ち入り検査を実施。捜査当局も強い関心を寄せている」,「同社が手形販売を始めた直後の1994年秋以降,何度かにわたり大蔵省近畿財務局から『不特定多数からの預かり金を禁じた出資法違反の疑いがある』と指摘されていた」などと記載され,また,「出資法に抵触しかねない『手形商法』に至った同社の現在の経営状態が,抵当証券の顧客に被害を与えることを懸念しており,早急に健全化するよう求めている」,「財務局は,年度ごとに提出される業報告書などから,複数の関連企業を抱える同社がグループ全体で多額の負債を抱えている実態を把握しており,以前から指導を重ねていた」「関連会社も含めた同社の経営内容の悪化が深刻さを増し,主体である抵当証券の客への被害も懸念されるようになったため,財務局は10月31日,業務改善命令を出した」などという記載があった。
そして,前記(1)ウのとおり,被告はその当時から当該会社が大和都市管財であることを知っていた。
(イ) 大和都市管財の従業員ないし関係者から被告に対し,大和都市管財の経営実態に関する内部告発文書が送付されていたこと,あるいは,被告がそのような内部告発文書が他の報道機関に送付されたことを知っていたことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) そして,他に,被告が,大和都市管財の商法や経営・財務内容に関して,上記(ア)の新聞記事の内容を超える情報を有していたこと,又はそのような情報を得ることができたことを認めるに足りる証拠はない。
イ そこで,上記ア(ア)の事情が,大和都市管財の広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情に当たり,被告において,読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得たといえるか否かについて検討する。
(ア) 出資法違反の疑いについて
a 原告らの主張するとおり,抵当証券業は,内閣総理大臣(平成9年法律第102号による改正前は大蔵大臣)の登録を受けた法人でなければ営むことができないところ(抵当証券業法3条),出資法等の規定により罰金の刑に処せられ,その刑の執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過しない場合に該当することとなったときは,登録を取り消すことができるとされている(同法24条1項1号・6条1項5号)。
そして,上記ア(ア)の新聞記事は,大和都市管財が出資法にも触れかねない利回り商法を展開していると伝えている。
b しかしながら,上記ア(ア)の記事内容からすれば,大和都市管財は,近畿財務局から,平成6年秋以降何度かにわたり出資法違反の疑いがあると指摘されていたものの,平成9年10月31日に至るまで,刑事処分を科されなかったことが窺われる。
また,前記(1)オのとおり,朝日新聞を始めとする他紙に,大和都市管財の商法に対する出資法違反の疑いについての続報記事は掲載されていなかった。
さらに,前提となる事実(3)アのとおり,上記ア(ア)の新聞記事には,大和都市管財が,「複数の弁護士や大蔵関係者と相談を重ねた結果,(中略)明らかに違法だという指摘はなかった。当社と取引が長く,信頼関係のある客に絞っており,出資法が定める『不特定多数』からの預かり金にはあたらない」,「問題があるなら,正式に行政指導などをしてくれと要請したら,一般論で述べているだけだと言われた。それ以降もとくに厳しい指摘はなく,法的な問題は回避したと受け止めた」などと主張していることが記載されており,前記(1)エのとおり,被告もかかるCの反論をDを通じて聞いていたところ,上記のとおり刑事処分も続報記事もなかったという状況に照らせば,被告において,これらの大和都市管財の主張・反論は虚偽であると判断すべきものであったとはいい難い。
c したがって,被告において,上記ア(ア)の事情から直ちに,大和都市管財が出資法違反の罪で罰金刑に処せられ,抵当証券業登録を取り消されるおそれがあると判断することは困難であったといわざるを得ない。
(イ) 経営状態について
a 抵当証券業の登録の有効期間は3年であり(抵当証券業法7条),有効期間の満了の後引き続き抵当証券業を営むには,有効期間の更新の登録を受ける必要がある(同法8条1項)。そして,更新登録を拒否しなければならない場合として,登録更新申請者が,資本又は出資の額が抵当証券の購入者を保護するため必要かつ適当と認められる金額として政令で定める金額に満たない場合(同条2項・6条1項2号),出資法等の規定により罰金の刑に処せられ,その刑の執行を終わり,又は執行を受けることがなくなった日から3年を経過しない場合(同項5号),抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成を有しない場合(同項7号)等が定められている。
そして,上記ア(ア)の新聞記事は,大和都市グループが多額の債務を抱えており,経営内容の悪化が深刻で,抵当証券の客への被害も懸念されるため,業務改善命令が出されたと伝えている。
b しかし,前提となる事実(2)ウ(ウ)のとおり,近畿財務局は,平成9年12月21日,大和都市管財の抵当証券業登録の有効期間の更新登録をした。
これについて,原告らは,業務改善命令は「抵当証券の購入者の利益を害する事実があると認めるとき」(同法23条)に発令されるものであり,多額の負債を抱え経営の悪化を指摘されて業務改善命令を受けたばかりの会社が,短期間に業務を改善できるはずはないと主張する。
そして,確かに,業務改善命令が発出されてから2か月も経過していない上記更新登録時において,既に大和都市管財の業務が十分に改善されていたと考えることは困難である。
しかしながら,近畿財務局は,仮に,上記更新登録時において,大和都市グループが多額の債務超過の状態にあって,それまで販売してきた金融商品について,約定どおりに利息を支払い,元金を償還することが不可能な財務状態に陥っていると判断したか,あるいは,そこまでには至っていなくとも,経営・財務内容の悪化が深刻で,かつ,平成9年11月に大和都市管財から提出を受けた経営健全化計画書(前提となる事実(2)ウ(イ))の内容が到底実現できないようなものであって,その後の業務の改善が期待できない状況であると判断したとすれば,上記aの更新拒否事由に該当するものとして更新登録を拒否したものと考えられるところ,近畿財務局は,そうすることなく更新登録をしたのである。
したがって,この事実は,上記aの更新拒否事由の規定に照らしていえば,近畿財務局が,大和都市管財について,資本又は出資の額が抵当証券の購入者を保護するため必要かつ適当と認められる金額として政令で定める金額を満たしており,抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成を有する法人であると認めたことを示すものであるといえる。
c これに,前記(1)オのとおり,朝日新聞を始めとする他紙に,大和都市グループの経営内容の悪化についての続報記事は掲載されていなかったこと,大和都市管財は,継続して,販売した金融商品について,約定に従った利払いを実行し,顧客からの元本償還の要求にも応じていたこと,さらには,大和都市管財の広告,営業方法,利息の支払,元本の償還等について,被告に対し苦情・クレームが寄せられていたことを認めるに足りる証拠はなく,かえって,前提となる事実(3)ア記載のとおり,上記ア(ア)の記事には,「手形の買い戻しなどをめぐって顧客とのトラブルはない」との記述もあったこと,以上の諸事情を考え合わせれば,被告において,上記ア(ア)の事情から直ちに,大和都市管財が経営破綻に至るおそれがあると判断することは困難であったといわざるを得ない。
d なお,原告らは,平成9年10月31日の朝日新聞の記事に,大和都市管財の約束手形の販売総額は百数十億円に達しているなどの記載があったことから,大和都市管財の資本の額と比較して,元利金の支払・償還に疑念を抱かせる事情があった旨主張する。
しかし,抵当証券の販売額とその販売会社の資本の額との比較から,直ちに同社の元利金の償還・支払能力に疑念を抱くことができるとはいえない。
また,原告らは,業務改善命令を受けた複数の抵当証券業者がその後に破綻していたと指摘する。しかし,そのような事例があったとしても,大和都市管財の抵当証券業登録について有効期間の更新の登録がされていたことに照らせば,大和都市管財も同じように経営破綻に至るものと予見できたとはいえない。
さらに,原告らは,被告が他の抵当証券業者の経営破綻を報道し,抵当証券の危険性を記事にしていたことを指摘する。
しかし,平成5年12月8日の中日新聞の記事(前記(1)イ)を除き,中日新聞に大和都市管財を念頭に置く記事が掲載されたことを認め得る証拠はなく,被告が,一般的に独立系抵当証券業者の経営基盤は脆弱かつ不安定であるという認識を有していたとしても,かかる一般論から直ちに大和都市管財の経営破綻を予見し得たということはできない。
ウ そうすると,平成10年2月26日から平成12年12月21日までの広告掲載時に,被告において,大和都市管財の広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって,読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得たということはできない。
(4) 平成12年12月22日以降の広告掲載時における大和都市管財の経営実態について
ア 広告掲載時の事情
(ア) 前提となる事実(2)ウ(ウ)のとおり,近畿財務局は,平成12年12月21日,大和都市管財の抵当証券業登録について,有効期間の更新の登録を保留した。
しかし,更新登録の保留中も前期の登録の効力が存続することから(抵当証券業法8条3項),大和都市管財は,営業活動を継続することができた。
そして,この事実は,前提となる事実(3)イのとおり,同月22日に,読売新聞及び日本経済新聞において報道され,その記事には,「財務局が実施している検査で財務内容について同社との間に見解の相違があるためで,異例の措置だが,期限が過ぎた20日以降も前期の登録が有効で営業に支障はない。
同財務局はさらに検査を進め,更新を認めるかどうか慎重に判断するとみられる。」,「金融検査は今年10月から実施し,12月上旬に実地検査を終了。」,「抵当証券業者は,資産と負債の差額が資本金を上回らねばならないとする規定があり,同社はクリアしていると主張しているが,同財務局は検査のなかで疑問点を指摘しているとみられる。」などという記載があった。
(イ) 大和都市管財の従業員ないし関係者から被告に対し,大和都市管財の経営実態に関する内部告発文書が送付されていたこと,あるいは,被告がそのような内部告発文書が他の報道機関に送付されたことを知っていたことを認めるに足りる証拠はない。
(ウ) そして,他に,被告が,大和都市管財の商法や経営・財務内容に関して,上記(ア)の新聞記事の内容を超える情報を有していたこと,又はそのような情報を得ることができたことを認めるに足りる証拠はない。
イ そこで,上記ア(ア)の事情が,大和都市管財の広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情に当たり,被告において,読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得たといえるか否かについて検討する。
(ア) 確かに,抵当証券業登録の有効期間の更新登録が保留とされた場合,その後,更新登録が認められる場合と,拒否される場合の両方があり得ることとなる。
そして,抵当証券業法上,更新登録を拒否しなければならない場合として,更新申請者の資本又は出資の額が抵当証券の購入者を保護するため必要かつ適当と認められる金額として政令で定める金額に満たない場合,更新申請者が抵当証券業を適確に遂行するに足りる財産的基礎及び人的構成を有しない場合等が定められているところ(前記(3)イ(イ)),上記ア(ア)の新聞記事は,近畿財務局が大和都市管財の財務内容に疑問を持っていると伝えている。
(イ) しかしながら,前提となる事実(2)ウ(ア)のとおり,近畿財務局は,大和都市管財に対し,平成9年6月から立入検査を実施し,その結果に基づいて,平成9年10月31日,経営状況の改善等を内容とする業務改善命令を出していたのであるから,大和都市管財の経営・財務内容について相当程度把握し,その後の大和都市管財の経営・財務内容についても強い関心をもって,注意を払っていたものと考えられる。そして,上記ア(ア)の記事には,近畿財務局は平成12年10月から金融検査を実施し,同年12月上旬には実地検査を終了している旨が記載されていた。これらの事情の下では,外部の第三者から見れば,近畿財務局は,同月20日の抵当証券業登録の有効期間の満了時において,既に,大和都市管財の財務内容について十分に把握していたと考えられる状況であったといえる。
そして,更新登録を保留とした場合,抵当証券業登録の有効期間の満了後も更新登録ないしその拒否の通知があるまでの間は登録の効力が存続することから,新たな抵当証券の販売が行われることとなり,その後に経営・財務内容が改善されないために更新登録を拒否して,大和都市管財が破綻することになれば,保留とせずに拒否していた場合と比較して,抵当証券購入者の被害が大きくなることは容易に予想されることであった。
そうすると,近畿財務局は,仮に,上記有効期間の満了時において,大和都市グループが多額の債務超過の状態にあって,それまで販売してきた金融商品について,約定どおりに利息を支払い,元金を償還することが不可能な財務状態に陥っていると判断したか,あるいは,そこまでには至っていなくとも,経営・財務内容の悪化が深刻で,かつ,それに関する大和都市管財の説明及び改善計画の内容からして,その後の業務の改善が期待できない状況であると判断したとすれば,上記(ア)の更新拒否事由に該当するものとして更新登録を拒否したものと考えられるところ,これを行わず,保留するにとどめていたのである。
したがって,この事実は,近畿財務局が,大和都市管財の経営・財務内容について,およそ再建不可能な状態にまでは至っておらず,業務の改善により事業を継続できる余地があると認めて,指導を行っていることを窺わせるものであったということができる。
(ウ) そして,上記ア(ア)の記事は,更新登録が保留されたこととその理由について簡潔に伝えるにとどまっており,それによる影響については,「期限が過ぎた20日以降も前期の登録が有効で営業に支障はない。」として,更新登録が保留とされたことの問題性や抵当証券購入者が損害を被る危険性については触れていない。
(エ) 上記(イ)及び(ウ)の事情に加えて,上記ア(ア)の2紙の記事の他に,近畿財務局による更新登録の保留に関する報道がされたことを認めるに足りる証拠はないこと,前記(1)オのとおり,朝日新聞を始めとする他紙に,大和都市グループの商法の違法性についての続報記事は掲載されていなかったこと,前記(1)カのとおり,大和都市管財は,継続して,販売した金融商品について,約定に従った利払いを実行し,顧客からの元本償還の要求にも応じていたこと,さらには,大和都市管財の広告,営業方法,利息の支払,元本の償還等について,被告に対し苦情・クレームが寄せられていたことを認めるに足りる証拠はないこと,以上の諸事情を考え合わせれば,被告において,上記ア(ア)の事情から直ちに,大和都市管財が経営破綻に至るおそれがあると判断することは困難であったというべきである。
(オ) なお,前記(3)イ(イ)dのとおり,被告が他の抵当証券業者の破綻を報道し,抵当証券の危険性を記事にしていたことから,直ちに,被告が大和都市管財の経営破綻を予見し得たということはできない。
(カ) そうすると,平成12年12月22日以降の広告掲載時に,被告において,大和都市管財の広告内容の真実性に疑念を抱くべき特別の事情があって,読者らに不測の損害を及ぼすおそれがあることを予見し,又は予見し得たということはできない。
3 以上のとおり,被告に大和都市管財の抵当証券に関する広告の真実性について調査確認する義務があったということはできないから,その余の点について判断するまでもなく,被告は原告らに対し,不法行為責任を負わない。
4 よって,原告らの本件請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

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